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2007.03.26 Monday

◇ 仕事の質と音楽の質

 昔の作品と今の作品を並べて聴き比べたり、一流ミュージシャンの演奏を聴いていたりすると、今のJ-POPはいかに音が貧弱なモノが多いんだろうと実感しています。

 昨年、ブログを一般向けに書くに当たって、行ってみたかったライブへの参加とか、ちょっと聞きたかったCD・配信での楽曲購入をしたことを書いてきましたが、買った楽曲の中で今も長いこと聴き続けている作品が実に少ないことに気付きました。

 大抵、何度も聴いている作品って、聞く度に何らかの新しさを感じられるんですよね。でも、話題性だけで飛びついたものは酷いものが多いのです。何でかな?と思う中で、最近、ボンヤリとですが、ある要因のようなものが見えてきました。

 この話を続けるにあたって、小寺氏がムービーがビデオを捨てる日というコラムでこう書いているのを見つけたので紹介します。

 大人数が協力して作るコンテンツは、一つの作品に対していろいろなキャリアや立場を持つ人たち――すなわち撮影、照明、音声、大道具、小道具、ヘアメイク、衣装、編集、音効ら――が、己の能力を発揮することで影響を与えていく。つまりはそれが、大人数で制作することで起こる「魔法」なのだ。この魔法が上手く働いたものは、制作者の意図や予想を超えたものが出来上がる。

 1人で作っていくものは、常に等身大の自分を超えられない。それを超えたければ、自分自身の成長を待たなければならない。だがその成長は、自分1人ではなし得ない。個人投稿というムーブメントは、そういうループに陥りやすい構造を持っている。それは映像文化にとって、必ずしも良いことばかりはもたらさないということである。

 実は音楽においても同じでしょう。自分が出来ない楽器を打ち込みでトラックを作ったからといったって、それは打ち込みをした人の才能以上のモノは絶対に出来ないのであって、独りよがりに終わりやすいのです。出来ればアレンジャーと演奏者は別の人の方が良いのでしょう。(同じドラムスであっても、実力のある人は様々な音を出しますし、ピアノだって、他の楽器だって、そういう弾き方があるの?という意外な音の並べ方をする人は多数います)出来る限り個性を持ち合わせた優秀な奏者のセッションによって、「魔法を掛けたように作品が変わる」ことは、多くの制作協力者を仰いだ映像制作と似ていますね。

 いや、実際の職場における仕事だって、上手いことアイディアを出し合えば、自分の想定していたことより大きなことが出来るかもしれないという、もっと一般的な事象に行き着くのですが、人を減らして低コストが流行るこの時勢、大きな仕事はやはり出来ないのかもしれません。

 大きな仕事を成し遂げるのには、凡人にはインセンティブが必要なわけで、結局のところ必要なのはお金、というのは事実でしょう。けれども、今の経費構成でメディア露出のための広告宣伝費の異常な大きさを考えると、そのお金の一部を制作費にまわすだけでも大分違うのではなかろうかとも考えられます。

 そしてもう一つ。メディア露出したものを吟味する、こういったこともリスナーの我々にも問われていると考えた方が良いと思います。探せば良い音楽は必ず見つかるのですが、何よりその「良い音楽を探して正当に評価する」という行為を怠っているリスナーが圧倒的に多いということも、また事実なのですから。
Posted by キャニオン at 05:10 | comments (2) | trackbacks (0) | 音楽

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Comments

音楽の中身についても言い得ている部分は大きいと思いますが、90年代あたりの「バブル」以降マスコミ露出でセールスを狙う方向性から抜け切れていないことが最大の問題ではないかと?
もはや「過去のもの」として映画にもなった「バブル景気」から、未だ抜けきれないと言って良いのかもしれません。、、、そんな業界、他にありましたっけ?

ネット界隈を見ていると、リスナーまで「バブルを抜けきっていない」って点がさらに重症なのかも知れませんが。
by : H.Sasamoto ... 2007/04/01 08:14 PM
>H.Sasamotoさん
 作り手の作る音楽と、作り方が変わり、売り方が変わるべきなのに本質的なところでは変わってない。聴く方もテレビで聴けば聞けると思いこんでいて、売れる音楽が良い音楽だと思っている。
 結局、いろんなところに問題があるんですよ。だいたい、学校で音楽史一つ教えないじゃないですか。下手したら、楽器の形や音すら知らない人がいるんですよ。

> 業界
 有名なものしか置かない店にも一因があったり..。だいたい店で「こんなのが良いよ」と提案できないこと自体に疑問を感じます。
 マスコミ露出で短気にセールスを狙う、これは音楽に限った話ではないでしょう。育てることをしない、今の日本の企業体質そのものだと思います。来るところまで来たか、という感じです。

 尤も、苦言ばかり呈していても何も変わらないので、美人が写っているジャケットからでも(不純な動機でも)良いから、いろんな楽器の音を知って欲しいと思って、女性奏者のジャズやロック・フュージョンの話題を載せているんですけどね。聴いてみようとする人が少ないですね..。
by : キャニオン ... 2007/04/01 09:12 PM

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